魔王城にいらっしゃい!
コンコンとノックの音が魔王執務室に響き渡る。
「魔王さまーっ入りますよー!」
相も変わらず、血塗られたルーレットの前に座って山の様な書類に判を押していた少年魔王は、扉の向こうから聞こえてきた呑気な声に顔を上げた。
キィッとイスを回して扉の方へ向き直る。
すると返答を寄越さないままに扉が勝手に開いた。
「こらっ、まだ僕は入っていいとは言っていないぞ?」
勝手に中に入ってきた部下に向かって魔王は不満げに言い放つ。
魔王がご立腹である‥。
そう人々が知れば普通なら膝を地面に付いて平謝りする所であろうが、この女性部下は違った。
さして気にする様子も無くツカツカと部屋に入ると、執務室のドアをぴったりと閉めた。
「だって魔王さま、入っちゃダメな時はドアの鍵をちゃんと閉めてるじゃない?」
私いま入れましたよ。
それにちゃんと断りましたし。
悪びれる様子も無くあっけらかんと言って返す女性部下。
「まぁ、いい‥。僕は君のそういう物おじしない態度を気に入っているよ、ソリア」
「そういえば私、仕事で来たんです。これ、勇者のレポートNo2!」
ソリアと呼ばれた女性部下は魔王にやや分厚いレポートを差し出した。もちろん、面と向かって瞳を合わせたまま。
魔王に対してこれ程にまで躊躇なく普通の態度をとれるのは、彼女とあと幾人かなものだろう。
「ソリアはもう読んだの?このレポート。」
「いいえ、私はまだ読んでませんよ。魔王さまが一番に読みたいだろうと思ったから。」
「さすがだね。よく分かっているよ。出来るなら僕が直々にアイツを観察したい位だ」
「アハハ、それストーカーですよ!」
躊躇がない所か若干失礼でさえあるのだが、それでも魔王は不敵な笑みを引っ込めない。
この立場についてから、どういう訳だか周りが仰々しくていけない。
だから話し相手として、ソリアみたいなあっけらかんとした、裏表のない性格の人間が貴重なのだ。
「あっ、そういえば観察隊の人が言ってましたけど、勇者から魔王さまにメッセージがあるとか‥」
「なにっ、メッセージだと?」
「宣戦布告とかじゃないですかー?」
ソリアは、まあ魔王さまの方が断然強いですけどね!と言って笑った。