魔王城にいらっしゃい!
教会の大きなオルゴール時計の美しい旋律が、ゆっくりとしたスピードで鳴り響く。
そのオルゴール音が鳴り終われば、いつも通り神聖な祈りの時間が訪れるのだ。
教会の司祭は目をつむり、旋律と共に過ぎていく時間に耳を傾けていた。
もう少しで音楽が鳴り終わるかという時に司祭の耳は別の、なにか遠くから走り寄ってくる足音のようなものを察知した。
数秒後に教会の扉がバタンと大きな音を立てて開かれた。
「司祭さまあ!!!」
「おや、どうしたんですか?」
「大変だわい!孫が魔物に襲われてケガをしてしまったのじゃ!」
「なんと‥!どれ、貴方の腕の中に居るのがお孫さんですね?私が診てみましょう」
すっかりパニックに陥っている老人の腕から司祭はまだ幼い少女を抱き寄せ、魔物に襲われてた箇所の様子を調べた。
右腕のその箇所からピクピクと痙攣する動きが見受けられた。
この症状は『麻痺』と見て間違いないだろう。
「心配入りませんよ、おじいさん。私が治療してみせます」
「司祭さま‥!!」
「私は『プリースト』ですから」
司祭は両手を組み合わせ、何やら細かな呪文のような言葉を唱え始めた。
すると不思議と少女の傷口にキラキラした光りが集まり、みるみる内に傷痕が消えていった。
やがて傷口が殆ど見えなくなると、司祭はポケットから薄い青色をした薬草を取り出した。
それを半分に折って少女の傷口跡に塗り付ける。
何秒かすると今までピクピクと小刻みに震えていた痙攣が止まった。
「ありがとうございます司祭さま!!」
老人は司祭の両手を取りブンブンと上下に振って感謝と感激を表した。司祭は暫く困ったように苦笑していたが、やがてスッとその表情を引っ込めると、至極真面目な表情をした。
「ところで、この怪我はどこで負ったものなのでしょうか?」
「むっ‥こ、これはじゃな。村の裏山に魔物が出ての。」
(やはりそうですか‥。)
司祭は胸の内でそう呟いた。
数日前に教会に訪れたケガ人も『裏山で魔物に襲われた』と似たような事を言っていたのだ。
やはりこれは噂に聞く『魔王』の影響なのだろうか?
「村長に裏山への立ち入りを禁止して貰わなければなりませんね‥」