木苺の棘
私は、彼女の細い腕に
支えられて、その場に
立ち上がる。

露歌さんは、棺に納められた
巽の遺体を見つめる。

巽に触れようとして
伸ばした手を胸元に戻した。

棺を覗き込んで彼女は言う。

「モカちゃんの事は
 私に任せて
 
 タツミ・・・
 
 貴方は、ゆっくりと
 やすみなさい
 
 おやすみ

 行こう、モカちゃん」

私は、露歌さんと並んで歩き
この部屋を出て行こうとした
その時、足が止まる。

「ツユカさん、待って
 もう一度だけ
 最後に・・・」

私は、巽の傍へ向かい
貴方の頬に手を翳す。

そして、胸元で組まれた手に
そっと口づけた。
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