木苺の棘
「困るの?
 あっ、そうか困る理由
 君、公演する奴の
 昔の女だろ、あたり?」

「違います」

反論する私に笑いかける
小父さん。

彼とのやり取りに困っている
私の肩に優しく触れる手。

男性の声・・・

「何やってんの?
 こいよ」

「えっ?」

男性は、私の肩に腕を回して
歩き出す。

「あの・・・?」

私は、隣で歩く男性を、パッと
一度だけ見上げた。

彼は、キャップ帽を深く被り
眼鏡をかけていた。
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