木苺の棘
露歌さんは、少し腑に落ちない
ようだったが、とりあえず
その話を信じることにした。

「イサミには、会えますか?」

「はい、今はまだ
 眠っていますが、どうぞ」

病床に横になる敢さんの
腕には点滴の針が刺さる。

露歌さんは、敢さんの手に
さっと触れた。

「温かい、手」

その手に、頬を寄せると
綺麗な涙が流れた。

「よかった
 本当に、よかった」

私は、露歌さんの涙を見て
胸が痛んだ。

痛む訳・・・それは

なぜなら、私が敢さんの手に
触れて、その手に頬を寄せたい
そう思ったから。
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