木苺の棘
こうして、ゆっくりと貴方だけ
を見つめて演奏を聴いたのは
もしかしたら、今日が初めて
かもしれない。

あの、二人の交際を知った
ライブの日は、あの場所から
逃げ出し、文化祭の日は
ずっと遠くから見つめた。

偶然に見る事ができた
街道ライブの時は、演奏が
途中で中断・・・

私は、耳を研ぎ澄まし
貴方を見つめる・・・

メロディアスな曲調に
亡くなった、愛しい恋人・・・

八重へと向けられた
切ない歌詞・・・

私の胸は、キュンとなる。

濡れた髪から、ポタポタと
滴る雫で、私の背中は
びしょびしょ・・・。

濡れたシャツが、背中に
ぴったりと、くっ付いている。

私に声を掛けようとした巽は
声を掛けることをやめた。
< 94 / 674 >

この作品をシェア

pagetop