観念世界
「いい?ご主人。一気飲みの音頭に『いっき、いっき』なんてのはもう古いの」
妖精は身振り手振りを交えて解説を始めた。俺は呆気にとられていたので前半をちょっと聞き逃したが、支障がなさそうなのでそのまま話を遮ることなく妖精に注視する。
「今は『飲んでのーんで飲んで!』よ!手拍子のリズムはこんくらいで…」
手のひらサイズの生き物が俺の鼻先で手拍子をうってみたりこぶしを振り上げたりしながら自分の何倍も大きな生き物に力説している。熱い。とにかく熱い。『あぁ、そういえば高校時代にこんな熱い体育教師がいたなぁ。あの先生はまだご健在だろうか』と、一瞬どうでもいい事を考えてしまうくらい熱い。……いやいや、熱いとか体育教師とかどうでもいい。
はっと我に返る。いけない。現実逃避してしまった。別に俺はその場を盛り上げたいわけではなく、つつがなくその場をやり過ごしたいだけだという旨を妖精に伝えねば。おそらく聞いてくれないけど。
「いやいや、そういうの望んでないから!って言うか、何でお前そんなこと知ってんだよ!」
「そんな事はどうだっていーいの!」
いや、間違いなくそっちの方が気になる。しかし口をはさむ隙もなく講義は続く。そしてやはり聞いてもらえなかった。
しかし勢いよく口火を切った妖精は何故か急に難しい顔をして腕組をしてしまった。
「……うーん、でもなぁ。こんなご時世だし、一気飲み自体が流行んないしなぁ。飲酒運転の罰金も高いし」
「よく知ってるなぁ。社会情勢も年寄りくさい言い回しも」何かもう感心してしまう。
妖精はさも残念そうに眉根を寄せ、背後に落胆の文字が見えそうなほど肩を落としている。心なしか明るい黄色の羽根がからし色っぽく見えるような気すらする。
「あたし、音頭には自信があって、いろいろレパートリー持ってんだけどなぁ……はいはいはいはーい、とか、しゅぽぽぽしゅぽぽぽ、とか……惜しいなぁ」
「うーん、惜しいかもしれない」
そのしゅぽぽぽ、とやらで一気飲みしてみたい気もする。
妖精は身振り手振りを交えて解説を始めた。俺は呆気にとられていたので前半をちょっと聞き逃したが、支障がなさそうなのでそのまま話を遮ることなく妖精に注視する。
「今は『飲んでのーんで飲んで!』よ!手拍子のリズムはこんくらいで…」
手のひらサイズの生き物が俺の鼻先で手拍子をうってみたりこぶしを振り上げたりしながら自分の何倍も大きな生き物に力説している。熱い。とにかく熱い。『あぁ、そういえば高校時代にこんな熱い体育教師がいたなぁ。あの先生はまだご健在だろうか』と、一瞬どうでもいい事を考えてしまうくらい熱い。……いやいや、熱いとか体育教師とかどうでもいい。
はっと我に返る。いけない。現実逃避してしまった。別に俺はその場を盛り上げたいわけではなく、つつがなくその場をやり過ごしたいだけだという旨を妖精に伝えねば。おそらく聞いてくれないけど。
「いやいや、そういうの望んでないから!って言うか、何でお前そんなこと知ってんだよ!」
「そんな事はどうだっていーいの!」
いや、間違いなくそっちの方が気になる。しかし口をはさむ隙もなく講義は続く。そしてやはり聞いてもらえなかった。
しかし勢いよく口火を切った妖精は何故か急に難しい顔をして腕組をしてしまった。
「……うーん、でもなぁ。こんなご時世だし、一気飲み自体が流行んないしなぁ。飲酒運転の罰金も高いし」
「よく知ってるなぁ。社会情勢も年寄りくさい言い回しも」何かもう感心してしまう。
妖精はさも残念そうに眉根を寄せ、背後に落胆の文字が見えそうなほど肩を落としている。心なしか明るい黄色の羽根がからし色っぽく見えるような気すらする。
「あたし、音頭には自信があって、いろいろレパートリー持ってんだけどなぁ……はいはいはいはーい、とか、しゅぽぽぽしゅぽぽぽ、とか……惜しいなぁ」
「うーん、惜しいかもしれない」
そのしゅぽぽぽ、とやらで一気飲みしてみたい気もする。