自伝
しばらくして石井さんが用意したマンションに引っ越した。

引っ越しの日は見送るのも、見送られるのも辛いから、悟史さんはわざと出掛けた。


私は春陽と一緒に衣類とタンス1つだけ車に積み家を出た。

新しい部屋は今までと違い広くて


部屋の前には川が流れ川沿いに桜の木が沢山あった。


「春になったら…桜きれいなんだろうね」


「部屋から花見が出来るな」


「うん…」


悟史さんと暮らした場所からは1つ隣の駅に移っただけの距離。


心のどこかで


安心してた…


それからしばらくして悟史さんが自己破産をした。


何件かの支払先が残ったものの


今までの返済地獄からは脱出できた。


石井さんは川越に帰る事はなく


最低限な着替えだけを持って一緒に暮らしていた。


夜の仕事がなくなったおかげで


昼間の仕事中に居眠りすることはなくなった。


春陽の保育園も家のそばに移った。


きっと川越に行っても、保育園は何とかなってたはず…


それでも、行きたくなかったのは


やっぱり…心のどこかで悟史さんと離れたくなかったんだと思う。
< 166 / 284 >

この作品をシェア

pagetop