自伝
その日はたまたま、顧客データの整理をしていたため残業していた。

早瀬さんは同じ部の川上大介と2人で得意先へ行っていた。
同じ部の石田ゆかりが慌てて私の所に来ると

「仲田さん!!大変!!
今、警察から連絡があって!!部長と川上君が事故で病院に運ばれたって!!」

息を切らしながら必死に伝えてくれた。

「病院…何処!?」

「池袋の救急…」

「行こう!!!」

とにかく早く行きたかった。

幸い病院が会社からそんなに遠くない場所だったから、ゆかりと2人で走って行った。

昔からある救急病院で病室も狭苦しい感じがした。

会社に向かう途中、交差点で信号無視した車と正面衝突したらしい。

運転は川上君がしていた。

小さな営業車だったから車は回転して廃車寸前だそうだ。

恐る恐るゆかりと病室のドアを開けてみた。

早瀬さんと川上君は隣同士のベッドで体を半分起こした感じで起きてた。

既に、総務の部長とか何人か居て話をしていた。

早瀬さんが私に気付いてくれた。

「仲田…
石田も来てくれたんだ。」

首にコルセットをしていたけど、微かに微笑みながら言ってくれた。

いつも私に言ってくれる


「おいで」


の時と同じ目…

側に駆け寄りたかった

触れたかった

抱きしめて欲しかった

初めて自分の立場を思い知らされた瞬間だった…。

後から花瓶を持ってキリッとした女性が病室に入って来た。
「皆さん、ご心配おかけ致しまして申し訳ございませんでした。」

総務の部長が

「いえいえ、それでは明日にでも本人の希望通り等々力の病院に移る手配をしましたので…これで失礼します。」


「本当に有難うございました」


そんな会話を聞きながら

等々力の病院に行くんだ…

と、少し残念な気持ちだった。

病室にゆかりと私だけが取り残された

早瀬さんがすかさず
「あぁ 僕の奥さんだよ」

と紹介してくれた

やっぱり…

そう思ってた…
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