四十六億年の記憶
「さて、君に聞きたいことがいくつかある」
彼女は濁った目で私を睨んだ。
言いたいことは手に取るようにわかる。
わかる、がこちらの要求を飲ませよう。
そもそも彼女には「私に従う」という選択肢しかないのだから。
「疲れているんだ、早く帰らせてくれ、か?」
「概ねそのとおりだ。わかっているなら家に帰らせてくれ」
「折角門限を気にしなくてもいいんだ。話には最後まで付き合ってもらうさ」
「聞きたいことって何だ。手早く済ませてくれ」
これは好都合だ。彼女から話を切り出してくるとは。
やはり逸材。最高の人間だ。
「聞きたいことがある」のではなく「聞いて欲しいことがある」のを見抜いてくるとは。
「君は、生まれたくて生まれてきたか?私は違う。これだけは断言できる。私は決して生まれることと自分で望まなかった、と」
「誰も彼も同じだろう、そんなこと。昨日の話の続きか?」
……流石。
そう、誰も彼も皆同じ。何一つとして自分で望んだわけではない。
「気が付いたら生まれていたんだ。そして、気が付いたら回っていた。生まれてすぐに私は分裂してしまった」
記憶はおぼろげに掠れどもあの痛みだけは覚えている。