かけがえのないキミへ


俺は梨花の方を見て、その声の真相を確かめる。案の定、梨花の目からは涙が零れていた。


でも俺は『大丈夫?』などと声はかけず、また前に向き直した。


ふと左側の綾音を見ると、綾音の目からも…涙が零れ落ちていた。

その涙を見た瞬間、胸が締め付けられたようになった。


頭を撫でてあげたい。
慰めてあげたい。

などと、叶うことのない願いをした。

だが俺は勇気を振り絞り、綾音の肩を突っついた。
綾音は俺の方を見る。
涙で潤った瞳で俺を映す。


小さな声で俺は『大丈夫?』と言った。

梨花には言えなかった言葉を、綾音に─…



綾音はこくんと頷いて、ハンドタオルで涙を拭いた。
彼氏の竜也は何してるんだよ、と思い、竜也を見ると、竜也まで泣いていた。


どうなってんの?
そんな感動する映画なわけ?



俺が綾音に優しくしている光景を、俺の右側の女はずっと見ていた。



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