かけがえのないキミへ


愛しいキミと─…


キミは目を丸くして、俺たちを見ていた。
そしてその場を急ぐように勢いよく去って行った。


ゆっくりと梨花の唇が離れる。


『初めてだね。怜とキスするの』


梨花はくすっと笑って、俺のネクタイを締め直していた。
俺は未だ硬直していた。


綾音に、見られてしまった。
キスをしているところを、綾音に─…


このことが俺の中で駆け巡っていて、俺はしばらく何も考えることが出来なかった。

梨花の唇の感触でさえ、空気に触れてしまったら忘れられたのに、綾音のあの表情だけは、忘れられなかった─…


後悔という渦が俺を巻き込む。


『竜也たちのとこ行こっか!』


梨花は満足そうな顔を浮かべて俺の手を握った。俺には手を握り返す力など残っていなかった。


でも梨花に引っ張られ、なんとか歩けた。


綾音にどんな顔をして会えばいいの?



綾音はどんなことを思っているの?



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