かけがえのないキミへ


俺を真っ直ぐ見つめてよ。ねぇ、綾音?聞こえる?


俺はお茶の入ったグラスを握りしめて、綾音の背中をずっと見つめていた。
徐々に苦しくなってくる胸や心臓。

なんでキミはヒトのモノなの?
なんでキミは声が出ないの?


なんで─…なんで…

俺の名前呼んでよ…


こう思っていると、突然綾音が後ろを振り向いた。
俺は慌てて視線を綾音からずらす。
綾音は濡れた手をタオルで拭いて、近くに置いてあったカバンを手に持った。


『学校行く?』


こくん、と頷いて、俺を指差した。


『俺は遅刻していくよ。行ってらっしゃい』


手を挙げて数回振ると綾音も振りかえしてくれる。
そして、俺の前からいなくなった。


ドアが切なく、部屋中に響き渡る。


それと同時に俺から零れ落ちた溜め息が部屋中を埋め尽くす。


置き時計が、7時48分を示していた。



『早く会いたいな…』



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