かけがえのないキミへ


右か左か?
目を閉じて、慎重に事を思い出していく。
綾音の高校は…
住宅街の中にあって…
白い綺麗な校舎だ。
遠くの方には、小さいが、この時計台が見える。

『こっちだ!』


記憶が蘇ったのか、俺は目を開けると同時に、右に続く道を走っていった。
この時計台を目印にして、俺は走っていく。


綾音、待ってて…


息を乱して、次々に通行人を抜いていく。
坂道だって止まったりしない。
綾音に早く渡したいから。


『はぁ、はぁ…』


滴り落ちる汗。
きらりと光る汗。
振り返る通行人。
俺はそんなの気にしなかった。


次第に見え始める白い校舎。
校舎には大きな時計が、あった。
その針は、8時半過ぎを示している。
門近くに向かうと、生徒の姿はなかった。

もう始まっているのかな?


俺は乱れた息を整えながら、校舎をゆっくりと見上げた。


ここに綾音がいる…


ここに─…



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