かけがえのないキミへ
この壁がなければ、
俺は安心するのかな?
いや、そんなことはないだろう。
安心より、嫉妬の方が多くなる。
綾音は気付いてないだろ?
俺がキミを想って泣いてるって…
数センチの壁の向こうで、俺が涙を流してるって…知らないだろ?
俺は手で涙を拭った。
俺ってこんなにも弱いやつだったっけ…
すると突然、隣の部屋から竜也の声が聞こえなくなった。
すぐにピンとくる。
もしかしたら竜也が綾音を…
考えたくもない。
俺は首を横に振って、
なかったことにする。
だけど、もし…
『…やめろ』
頼むから、そんなことにはならないで。
お願いです。
綾音を─…
奪わないで─……
数センチ向こうに向かって、願い事をした。
目をぎゅっと瞑って、静かに願う。
遥斗さん、俺、間違っててもいいから、自分の気持ちに素直になるよ。
俺は目を開いて、自分の部屋から飛び出した。