かけがえのないキミへ


どうしても見たいんだ。綾音の笑顔が。
俺がさっき泣いてしまったから、笑顔にはなれない。
綾音が泣いてしまったら、悲しくなるのは俺の方だ。
綾音は笑顔でいてよ。
涙を流すのは、俺だけで十分だ。


ベランダへと出て、俺は空を見上げる。
真っ青だった空に、オレンジ色が加わるだけで、幻想的に見える。

まだ、間に合うはずだ。

俺は綾音の目を、そっと手で覆って、綾音の視界を暗くする。
綾音は大人しく立っていた。


綾音に見せたい。
俺より先に、空からのプレゼントを。


『綾音、目を開けたら空を見るんだよ…』



俺はこう言って、ゆっくりと綾音の目を覆っていた手を離していった。

少し戸惑いながら、綾音は俺の言われた通り、空を見上げた。
流れ落ちる涙を光らせて。


『綾音、なにが見える?』


綾音の瞳になにが映っているのだろう?
空から、なにをもらったの?



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