かけがえのないキミへ


この人が綾音の母親。
この人が綾音を産んだなんて、想像もつかない。

唇と同じ色をした爪も印象的だった。


『中、いいかしら?』


『はい。どーぞ』


綾音の母親は、俺の横を通って、ピンヒールを脱ぎ捨てた。
俺は鍵を閉めて、母親の後を追う。


母親はソファーに座ると直ぐに、カバンの中から、タバコを取り出した。親父と同じ、SevenStarsだ。


『タバコ、いいかしら?』


『大丈夫です』


俺は昔親父が使った灰皿を渡し、冷蔵庫からお茶を取り出してグラスに注いだ。

たちまち部屋中はSevenStarsの香りが漂う。
前、親父が吸っていたSevenStarsと同じ香り。
当たり前か。


『初めて会いますよね?親父との生活はどうですか?』


薬指にキラキラと輝いている大きなダイアモンドの指輪を見ながら、俺は質問をする。



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