かけがえのないキミへ


今気がついた。
そうだ。この人は親父と結婚したんだ。
綾音の母親であり、
俺の義理の母親でもある。


母親は煙を吐いて、灰皿に小さくなったタバコを押し潰した。


『幸せよ、昔と違って。そういえば綾音は今どこにいるの?』


『部屋にいます。さっきお母さんが来てるよって言ったんですけど』


お茶の入ったグラスを母親に渡すと、小さな声で『ありがと』と言った。俺はお茶を一口飲んで、ソファーの上で胡座をかく。


『私にきっと会いたくないのね。あの子、私を恨んでいるから』


笑いながら母親はこう言って、お茶を口に含んだ。
グラスにはうっすらと口紅が残っている。


『恨んでる?なんでですか?』


母親はグラスを透明なテーブルの上に置いて、真っ直ぐ俺を見た。


そして静かに口を開いた。


『綾音の声を奪った犯人だから』



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