かけがえのないキミへ


顔色を一度も変えずに、淡々とこう言う。

俺はなんて言われたか、一度では聞き取れなかった。
それだけ衝撃が大きかったということ。


『え…それって…』


苦笑いをして、もう一度言ってもらおうとする。それを母親は察知したのか、にっこりと笑って、再び口を開く。


『私が昔、綾音の声を奪ったの。だから綾音は私となんか会いたくないのよ』


『で、でも今まで一緒に暮らしていただろ?』


顔が引きつったまま、質問を重ねていく。
母親はもう一本タバコを取り出して、火をつけた。


『24時間の内、あの子と顔を合わせるのは、ほんの一瞬だったわよ』


俺の顔に容赦なくタバコの煙が覆いかかる。
俺はそんな煙に嫌がることなく、ただ真剣に母親の話を聞いていた。


『でも一緒に住んでたら…』


『私、夜の仕事のオーナーだったから、夜と朝が逆転していたのよ』


だから、真っ赤な口紅に、真っ赤な爪をしているのだと、勝手に思ってしまった。



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