かけがえのないキミへ
人は何故こんなにも変わってしまうの?
この疑問がぐるぐると私の中を駆け廻る。
何故私たちなの?
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、豹変する夫を見た。
夫の目には血が走り、もう優しい表情など無くなったようだった。
あなたは誰?
私はあなたなんて知らない。
私が知っている夫は…
こんな表情をしない。
言い聞かせている自分がバカらしく感じる。
この痛みや、この怪我の痕は、嘘ではない。
現実なのだから。
夫は綾音の方に近づいていく。
動かなくなった私は、声で必死に夫の行動を止める。
『あなた…綾音だけは…お願い…』
涙の速度は速くなり、畳の上に零れ落ちる。
遠くの方から、波の音が聞こえてくる。
だけど、今一番リアルに聞こえてくる声は…夫の声。
やめて下さい。
どうかお願いします…
私と綾音を、ここから攫って下さい。
波と一緒に…