かけがえのないキミへ
傷つけるのは私だけで十分だ。
きっと母親ならそう思うだろう。
子供を愛しているから、綾音を愛しているから、
痛い思いするのは、
辛い思いするのは、
私で十分です。
夫に『やめて』と言っても、夫は綾音に寄っていく。
怪しい笑みを浮かべながら。
涙で視界が歪む。
綾音を見ると、綾音は豹変した夫に怖がることなく、ずっと笑顔のままだった。
『あや…ね』
そうだ、綾音は夫が大好きだった。
綾音が持っているクマの人形は、夫が綾音の誕生日に買ったもの。
蘇る、幸せだった日々。
でも今は…
散らかった部屋に、
泣き崩れた私。
目が虚ろになる夫。
笑顔の娘。
どこからおかしくなったの…
つん、とする潮の香り。綾音は、この日を境に、大好きだった海が大嫌いになった…
夫の口から出た言葉が、綾音の繊細な心に深く傷つけた…