かけがえのないキミへ
俺はその話を聞き流していた。
綾音の過去が辛くて、俺のしてあげられることを必死に考えていた。
『その日、綾音の手にシャボン玉の容器があったの。あの子が照れ笑いするなんて知らなかったから…きっと好きな子でも出来たんでしょうね…って怜君、話し聞いてるの?』
母親はタバコを持った手で俺の顔の前をゆらゆらと揺らした。
煙が行ったり来たりを繰り返す。
『あ、はい。ごめんなさい。おばさん…俺、綾音を幸せにします。なんとしてでも。俺さ、綾音の泣き顔見ると辛くなるんだ』
俺は立ち上がり、窓から街を見下ろした。
夜の街へと変わる、世界を。
母親はくすっと笑う。
綾音とそっくりの笑顔で。
『怜君なら任せられるわ。綾音を』
『任せろって。俺が綾音を守る。綾音の過去も全部、抱えてあげる。綾音の笑顔をずっと見ていたいから…』
綾音が好きだから、
綾音を愛しているから。
いつか、『生まれてこなければ良かった』を、
『生まれてきて良かった』に変えてみせる。
俺が綾音を幸せにする…