かけがえのないキミへ


部屋の中で聞こえる音は俺の泣き声だけだった。

泣き止もうとしても、
涙は容赦なく流れてくる。
拭いても拭いても無理で、流れて落ちる。


俺はズボンのポケットから携帯を取り出して、
ある人に電話をかけた。

もしかしたら知ってるんじゃないかって。
昔、この人のことを親父なんて呼ばなかったし、思いたくもなかった。

だけど今なら呼べる。
そして今なら思える。
だって親父と同じ気持ちだから。


コール音が何度も重なる。
早く出て…と唇を噛み締めながら思っていた。
すると突然、親父の声が耳の中に入ってきた。


《怜か?どうした?》


親父の声を聞くのはあの時以来。
綾音が越してくる前だ。親父の優しい声を聞いたら、頭の中が真っ白になってしまった。


『…あ、綾音が…』


今にも消えそうな声を出す俺。


《綾音ちゃんが?》



『…いないんだ。部屋に…』



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