かけがえのないキミへ


錯覚かと思った。
嘘だと思った─…
だけど、今映るものは、儚く綺麗な…シャボン玉だった。


俺は足をもっと速く動かし、時計台へと急ぐ。


時計台の近くのベンチには─…キミがいた。


サラサラな髪の毛を靡かせて…シャボン玉をしているキミの姿が─…


ゆっくりと歩き、キミのところを目指す。


高鳴る鼓動を抑えながら、キミを見つめる。


『綾…音…』


いると思わなかった。
まさかいると思わなかった。


初めて会った場所に…
キミは初めて会ったときと同じで…シャボン玉をしていた…


また涙が出そうになる。だけどぐっと抑えた。


近づくキミの後ろ姿。
自由に飛んでいるシャボン玉たち。


俺は手を伸ばし、綾音の肩にそっと触れた。


『綾音…』


俺が綾音の名前を呼ぶと綾音は驚いた表情をしてこちらを見た。


やっと会えたね…


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