ラスト・ラン 〜僕らの光〜
周りにちらほらと生徒の姿が見え始める中、三人は昇降口に入って上履きに履き替えた。

二学年のクラスは校舎の二階にある。

階段を登りながら、前田がにやり、と気味の悪い笑みを浮かべて先ほどの話を続けた。


「おてんば娘だったけど俺の後を必死になってついてきてさ。可愛かったなー、あの時は。というかあの時がピークだったんだな」

「そんな昔の話。とっくに忘れた」


ぷいっと青柳はそっぽを向いた。


「今じゃこの通り。生意気な娘に育っちまったよ」


そういって前田は苦笑いをしてみせる。

ふうん、今でも十分可愛いと思うけどな─────────────────そこまで思ってから斗真ははっ、と我に返った。


何いってんだ、俺は。


階段を駆け上る二人の後ろで、斗真は想いを断ち切るように首を強く振った。

正直にいうと、斗真は青柳に惹かれる時がある。美人で儚げな容姿に似合わず、さばさばした性格の持ち主の彼女は男女問わず、クラスでも人気者だ。

しかし、斗真は前田と青柳の間に付け入る隙はないと重々承知もしていた。

それはクラスでも有名な話で、小中高とずっと一緒にいた二人は付き合ってはいないものの、今日まで培ってきた絆で結ばれていることは明らかだった。


「隼平だって昔の方が正義のヒーローみたいで格好良かったよ。今じゃ全く正義の欠片一つも見当たらないけど。三浦君を悪徳勧誘に引っ掛けようとしてるし」

「悪徳勧誘って何だよ。俺はな、三浦を思って純粋に陸上部に誘ってるんだよ」

「はいはい」


第一、二人の目を見れば分かる。

どんなに憎まれ口を叩いても、二人は確かに好き合っていた。

世の中には実らない恋があるものだと斗真はこの年になって悟ったが、今では前田と青柳が早く結ばれることを願って止まない。

好きな相手に素直になれず、つい冷たくしてしまう二人は似た者同士で、見ていてじれったく、微笑ましくもあった。

果たして喧嘩ばかりしている二人が結ばれる日が本当に来るのか心配だったが、斗真は二人の恋がいつか実るまで静かに見守っていようと思った。
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