ラスト・ラン 〜僕らの光〜
先生の机には医療に関する資料はもちろん、生徒から貰ったらしい色々な和菓子が置かれている。

そして、机の角隅で瓶に入った一輪の花が静かに咲いていた。

それほど花に詳しくない斗真だったが、その真っ赤な花の名前はよく知っていた。


「そのカーネーション、どうしたの?」


斗真は訊いた。


「ああ、これ?綺麗でしょ。三組の青柳さんがプレゼントにくれたの」


先生の口から出た名前に不覚にもどきりとしてしまう。


「…青柳って青柳凛子?」

「そう。三浦君と同じクラスの子。あの子もよく保健室に遊びに来るのよ。それで色々相談に乗ってたら、今朝先生はお母さんみたいだからってこの花をくれたの」


そういいながら、カーネーションを眺める江原先生の横顔は嬉しそうだった。

斗真は壁に掛かっているカレンダーに目をやる。


「そういえばもうすぐ母の日だっけ」


青柳がその花をプレゼントした意図が今頃になって分かった。


「三浦君もしっかり親孝行しなさいよ」


先生の言葉に、斗真は眉をひそめる。

ふいに、今朝の母親を思い出した。

甘い香水と、真っ赤な口紅が頭にこびりついて離れない。

斗真はひどい吐き気に襲われる。
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