ラスト・ラン 〜僕らの光〜
昇降口で靴に履き替えていると、ちょうど部活を終えた前田と鉢合わせになった。

汗だくになった体操着姿でタオルを肩にかけながら、彼は屈託のない笑顔を見せる。


「陸上部、入る気になった?」


何度も聞いたその台詞にもう聞き飽きた斗真は、乱暴にロッカーの扉を閉めた。


「お前は口を開けばいつもそれだな。部活には入らねえよ」


前田の横を通り過ぎようとすると、突然腕を掴まれる。

驚いて振り返ると、今度はにやにやと怪しげな笑みを前田は浮かべていた。


「俺知ってるよ。毎日放課後、三浦が保健室で陸上部の活動見てくれてること。本当は入りたいんだろ?」


思わず、斗真は言葉に詰まる。

それを見た前田の丸っこい目がさらに細くなった。


「いい加減、意地を張るのはやめて素直になろうぜ、三浦」


そういって馴れ馴れしく肩を回してくる前田の腕を斗真は振り払いながらいった。


「別に意地になんかなってないよ。じゃあな」


背後で小さな笑い声が聞こえたが、斗真は振り向かずにそのまま校門まで走った。

金網のフェンスの向こうを覗くと、校舎の昇降口で前田は陸上の部活仲間と何やらじゃれあっている。

皆、楽しそうに笑っていた。

自分が抱えている悩みなどちっぽけなものに思えるぐらい、それは楽しそうに。

斗真はその光景から目をそらし、逃げるように帰路を急いだ。
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