ラスト・ラン 〜僕らの光〜

「…誰が意地なんか張るかよ。今更部活なんてかったるいだけだ」


そんな風にぶつぶつと呟きながら歩いていると、いつの間にか自宅は目と鼻の先にあった。

斗真はその手前にあるコンビニエンストアへと寄る。


「いらっしゃいませー」


店頭に真っ赤なカーネーションの数々が出されている。

母の日のプレゼントにどうぞ、と手書きの貼り紙があった。


「……買ってやるか」


斗真はその一輪を手にとって、レジに持っていった。

もちろん母にではない。

江原先生に、だ。

涙もろい江原先生のことだからきっと泣いて喜ぶだろう。

その姿が容易に頭に浮かんで、思わず顔がほころんだ。

本当なら実の母親に渡すべきだろうが、斗真は母親に少しも感謝などしていなかった。

感謝どころか、むしろ憎しみに近い感情を持っている。

大嫌いだ、あんな母親。





「お客様、もう一本買っていかれますか?」

「えっ、あ──」


店員に言われて斗真はもう一本カーネーションを持っていることに気づいた。

思わずそれを床下に落とすが、店員に怪訝な表情に見られたので慌てて拾ったものの斗真は困り果てる。

無意識に二輪とったのだろうか。

だとしたら自分は情けない奴だと思った。

裏切られたのに、まだ心の奥底で母親を信じている。

そんな未練たらしい自分に嫌気がさした。

しかしレジの手前、元に戻すのは気が引ける。

仕方がなく斗真はカーネーションをもう一本購入することにした。
< 15 / 121 >

この作品をシェア

pagetop