ラスト・ラン 〜僕らの光〜
どうしようか。
コンビニエンストアを出てから、自宅までの距離が長く感じた。
鞄から二本の赤い花が顔を出して小さく揺れている。
一本は江原先生へのものだが、もう一本はどうしようか。
母には絶対に渡したくない。
絶対に。どうしても。
とにかくこの花が母に見つからないことを祈るしかない。
でなければ母が勘違いしてあの甲高い声で大喜びするだろう。
最後に母の日にプレゼントをしたのは斗真が小学校五年生の時だったが、あの時も母は大げさに喜んでいた。
下手くそな似顔絵を描いた画用紙を大事そうに握りしめ、何度もありがとうといっていた。
その優しい瞳と笑った顔を見て、自分も嬉しかった記憶がある。
あの頃の斗真は母がとても好きだった。
母も自分を好きでいてくれるのだと心から信じていた。
母は今も、あの似顔絵を持っていてくれているだろうか。
きっととうの昔に捨てただろう。
そうに決まっている。
もう二度と、母の優しい瞳が自分に向けられることはなかったから。