ラスト・ラン 〜僕らの光〜
セダンの自動車が去ってから、何分が過ぎたのだろうか。

斗真は鞄の中から一本のカーネーションを取り出し、それを両手で握りつぶした。

怒りに任せるように、強く。

真っ赤な花びらが、ひらひらと地面に舞い落ちていく。

初めて母が不倫をしていると気づいたのは、斗真が小学を卒業した頃だった。

春休み、街中で友達と遊んでいると、さっきと同じ男性と腕を組んでいるところをたまたま見かけたのだ。

その光景は幼いながら、衝撃を覚えた。

それから母はめっきりと家を空けるようになり、父も母の異変に感づいたのかいつの間にか両親は全く口を聞かなくなっていった。

早く離婚すればいいものの、世間体を気にしているのか、自分を気遣ってなのか未だに別れていない。

とっとと別れてくれたほうがこっちも楽なのに。一言も会話を交わさない両親を見ていると、苦痛で仕方がなかった。

あの冷たい空気に触れるだけで、吐き気を催してしまう。


……だめだ。


もう。


斗真は耐えきれず、道の隅で胃の中全ての物を吐き出した。

他に人がいなかったことが幸いだった。


早く家に帰って、水が飲みたい。


おぼつかない足取りで、斗真が家の門に手をかけると、


「三浦」



突然、背後から名前を呼ばれた。
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