ラスト・ラン 〜僕らの光〜
「三浦はどうして毎朝走ってるんだ?」
前田がいった。
少しの間を置いて、斗真は答えた。
「…嫌なこと忘れられるから。でも走っても走っても終わった後はもやもやするばかりで、前田みたいにそういう達成感を味わったことなんて一度もない」
前田は以前、俺が好き好んで毎朝走っているみたいなことを言っていたけれど、それは違っていた。
どうしようもない現実に無性に苛々して、そのやりきれない感情を抑えるために走るだけ。
でもどんなに走っても走っても心の中はいつまでも満たされないままだった。
残るのは達成感なんかじゃなく、怒りに似た感情だった。
「なあ、今から俺と勝負してみる?」
え、と斗真は顔を上げた。
前田は立ち上がって、腰についた砂埃を払いながらいった。
「あの電信柱までどっちが先にゴールできるか勝負しよう」
今いる場所から前田が指差した電信柱まで、ざっと100メートルぐらいの距離があった。
「早く。走ろうぜ」
いつの間にか前田はスタートの体勢に入っている。
「なんでいきなり競争なんだよ」
斗真は眉をしかめた。
「三浦はさ、いつも一人で走ってるから楽しめないんだよ。陸上っていうのは、誰かと一緒に走ることでその楽しさが分かって、やっとそこで達成感が味わえるようになるんだ」