ラスト・ラン 〜僕らの光〜
しかし、予想していた痛みはない。

代わりに暖かいクッションに包まれるように温もりを感じ、それは凛子を支えてくれていた。

凛子はそっと目を開け、振り向いた。


「バカ、凛子っ。あんな所に一人で登ったら危ないっていつも言ってるだろっ」


激しい息づかいで、隼平がいった。

隼平が凛子を受け止めてくれたのだ。


「…ごめん、隼平」


隼平は黙って凛子を起き上がらせ、衣服や膝についた砂埃を払った。表情からして隼平は明らかに怒っている。


「今回はたまたま俺がいたから良かったようなものの、次からはもう一人で登ったりすんなよな。凛子は女の子なんだから顔に傷でもついたら困るだろ」

「大丈夫だよ。もし顔に傷ついたら、隼平のお嫁さんにしてもらうから安心して」

「やだよ。おまえみたいなおてんば娘、嫁に欲しくねえや」


凛子が口を尖らせると、隼平は八重歯をみせて屈託なく笑った。

それからジャングルジムに足をかけ、運動神経が抜群の隼平は俊敏な動きであっという間に頂上に登りつめた。


「でもおまえ、ここに立って何してたんだよ?」

「星が欲しかったの」凛子は夜空を見上げる。

「星?」

「うん、星。一番輝いているあの星」

「馬鹿だな。星なんて掴めるわけないだろ」

「だって掴めそうだったんだもん」

「バーカ」


隼平は平然とそこから飛び降りる。

見事に着地し、手についた埃をパッパッと払いながらいった。


「帰ろう、凛子」

「え?」


隼平の表情が少し暗く見えたのは暗闇のせいだろうか。


「今日は俺ん家に泊まれってさ。さっきおばさんから連絡あった」
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