ラスト・ラン 〜僕らの光〜

１

それまで雨が続いていたのに翌日には太陽が顔を出し、朝方になると透き通った青空が目の前に広がっていた。

三浦斗真はネクタイを締め上げ、部屋の窓を開ける。

柔らかい風に包まれながら、眩しい光に目を薄めた。


「おはよう、斗真」


キッチンの奥で母が笑顔を見せる。

斗真は返事せず、食卓についた。
その対応に慣れていた母は、さらにかん高い声を出していった。


「今日はね斗真の大好きなオムライスにしたの。ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」


斗真はキッチンの前で小躍りしている母をちらっと見てから、スプーンを手にとった。

オムライスにたっぷりとかけたケチャップの匂いが鼻先をかすめる。
一瞬だけ吐きそうになった。


「ご馳走様でした」


朝食をきれいに平らげ斗真はスプーンを置く。
そして目の前で新聞を広げている父をじっと見つめた。

何分かして、その視線に気付いた父が新聞を閉じた。


「どうした、斗真。そろそろ学校に行く時間じゃないのか」


黙ってうつむく斗真に異変を感じたのか、母もそばまで駆け寄ってきた。額に母の冷たい手が当てられる。

ふわっ、と甘い香りがした。


「大丈夫だよ。別に熱は出てない」


斗真がその手を振り払うと母は困惑した表情を浮かべた。

唇が口紅で真っ赤に染まっている。


「どうした？斗真。何かあったのか？」父がいった。

「悩み事があるならお母さんに何でも話しなさいよ」母がいった。


奇妙な、光景だ。

両親は揃って斗真を心配するが、決して二人が目を合わせて会話を交わすことはない。

それはとても不自然で、見ていられなかった斗真は両親から顔を背けた。ソファーに置いた鞄を手にして、足早にその場を後にする。

これ以上、この居心地の悪いところにいたくない。


「何でもない。いってきます」