ラスト・ラン 〜僕らの光〜
斗真は呟いた。


「青柳は、前田のことが好きなんじゃないのか」


長い、間。

振り向くと、青柳の長い睫毛が物憂げな影を落としていた。

黙っている彼女にまたちくり、と胸が痛む。


「ごめん…帰る」


斗真は逃げるようにして、部屋を出た。




言ってしまってから激しく後悔した。

あんなことを言うつもりじゃなかった。




ただ、虚しかったのだ。



彼女の中にある前田の存在があまりにも大きくて、何度抱きしめても深い悲しみや孤独感がひしひしと伝わる。

そばにいるのに、遠い。




──抱いてほしいの。





彼女の姿が、母と重なる。



時々、母はこぼしていた。

寂しい、と。


父は仕事にかまけてばかりで家庭を顧みず、その度に母は寂しさを埋めるようにまだ小さかった俺を抱きしめた。

青柳には母みたいになってほしくなかった。
< 66 / 121 >

この作品をシェア

pagetop