ラスト・ラン 〜僕らの光〜
「おはよう、三浦」
八重歯を覗かせて、前田隼平は屈託のない笑顔を見せる。
それは青空によく似合っていた。
「今日も走ってるな。感心だよ」
最近、前田は隣のクラスなのにやたらと話しかけてくる。その理由はすぐに分かることだが、斗真はいい加減にうんざりしていた。
前田の先を、足早に歩く。
「おいおい、三浦。無視すんなよー」
今日は本当についていない。
朝から今、最も会いたくないやつに会ってしまった。
「やっぱり、お前の走るフォーム最高だよな。見ていて気持ちがいいっていうかさ。さっきのタイムに計った?」
「計ってない」斗真は素っ気なく答えた。
「うわ、もったいない。今の走りタイムに計ってたら、絶対自己新記録いってたと思うんだけどな」
大げさな程に嘆く前田に、斗真はため息を吐いた。
「あのさ、前田。何度も言うようだけど俺は陸上部に入る気は全くないから。だから褒めても無駄」
前田は陸上部員だ。
どこで情報を掴んだのか斗真が毎朝走っていることを知ってから、しつこく陸上部の勧誘をしてくるようになった。
前田はきょとんとして首を傾げた。
「何で?お前、確か帰宅部だろ」
「俺は忙しいんだよ。来年は受験だし勉強に集中したいんだ。だから部活なんかやってる暇はない。大体何で俺なんだよ。俺より速い奴はごまんといるだろ」
「好きなんだろ?」
「はっ?」斗真は大きく口を開けた。
「走ること好きなんだろ?じゃなきゃ毎朝走るわけないもんな」
「だから何?」
「俺も走ること好きだから陸上部に入ったんだ。だからお前も入ろうぜ、陸上部。仲間がいたほうが走ることがより好きになる」
そういって、前田はまるで夢見る少年のようにきらきらと目を輝かせていた。
「話になんねえ」
斗真はため息混じりに呟いた。