ラスト・ラン 〜僕らの光〜
その後も陸上のうんぬんを語る前田からいつ逃げ出そうかと隙を狙っていると、目の前で一人の女生徒が止まった。

短すぎず長すぎないスカートから覗く足が、今にも折れそうなぐらいに細い。

斗真と同じクラスの青柳凛子だ。


「隼平、いい加減に勧誘はそこまでにしておいたら?三浦君、嫌がってるじゃない」


そういって、彼女は斗真に向かって微笑む。

彼女の肌の白さが目にしみた。


「なんだ、凛子か。いいからお前は黙ってろよ。大体なあ、三浦はただ素直になれないだけで、本当は陸上部に入りたいんだよ」

「はあ?」思わず、顔をしかめた。

「そうなの?三浦君」彼女がいった。

斗真は必死になって、首を交互に振る。

「違うって言ってるじゃないのよ」

「痛えっ」青柳の拳が見事にお腹にヒットした前田は屈んだ。「暴力反対ー」

「行こう、三浦君」

「えっ?」


突然彼女に腕を掴まれ、斗真は不覚にもときめいてしまう。

腰まである長い髪からシャンプーの香りが微かに漂う。

甘いお菓子のような匂いもした。

ぐんぐんと前に腕を引っ張られ、彼女の小さな体に一体どこからそんな力が出てくるのだろうと思った。


「あーあ、凛子は昔の方が可愛かったな」


追いかけてきた前田が後ろでぽつり、と小さく呟いた。


「そうなの?」思わず、斗真は食いついた。


その際に、腕を掴んでいた青柳の力がさらに強くなり、斗真は肩をすくめた。

前田と青柳は家が近所ということもあって、幼い頃からの幼なじみらしい。

まるで兄妹のように育ったそうだ。
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