ラスト・ラン 〜僕らの光〜
「久しぶりだなあ、学校」
教室に入るなり興奮してはしゃぎ回る前田の姿に気付く人は誰もいない。
それどころか前田の身体を次々と人が通り抜けていく。
この奇妙な光景も最初こそは驚いたものの、今やすっかり慣れてしまっていた。
どうして俺だけなのだろう。
どうして、青柳じゃないのだろう。
胸ポケットにしまっていたメモ帳を取り出し開くと、そのほとんどの頁は前田に教えられた青柳の好きなもので溢れていた。
パンケーキハウス。
水族館。
アートアーティスト。
駅前の雑貨屋。
毎日のように一緒にいた二人だ。
前田は彼女から何度もそれらの話を聞いていたのだろう。
もっとも彼女とのたわいもない会話を全て覚えていた前田のことをすごいと思ったが。
俺には到底、真似できない。
もちろん彼女のことを想う気持ちは誰にも負けないが、青柳のこと隅々まで知り尽くしている前田にはとても敵わなかった。
幼なじみとはいえ、そこまでできるだろうか。