空が藍色に染まった頃。私たちは駅に向かっていた。
「ごめんねぇ、タク」
「べつに、謝ることねぇよ」
「じゃあ、ありがとね。こんなに」
私の左手にはゲーセンの袋が下がっていた。そんなに大きいものじゃなくて、本当に小さいものだけど、これでもかってくらい、膨らんでいた。
 あのあと、仕方なくもう100円入れたタクは、なかなか取れないクマちゃんに、闘志を抱いた。どうしても取ってやると。なかなか取れないもんだから、少しお安くということで500円を入れたところ、お目当ては一発で取れてしまった。おつりは、もちろん戻ってこない。あと5ゲーム、とにかく取れそうなものと狙っていると、じゃんじゃん取れてしまった。計4個も取れた。そして、消えたお金は、1000円オーバー。2000はギリいってないと…思いたい。
「もう駅だね」
右手で握っている彼の手を、ギュッと強く握りしめた。
 この手を放さなきゃいけないなんて、寂しすぎる。嫌だな。
 この時間が切り取れて、止まったらいいのに。
 こんな叶わない願いを、願うなんておかしいね。
 叶わないってわかっているのに。どうして、願うんだろう?
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