「あ、そうだ」
タイミングを伺っているうちに忘れていたことを、思い出した。
 手を繋いだまま、袋の中を探る。
 色とりどりのクマが、袋の中を、この闇の一部を、鮮やかに彩っていた。
 お目当てのものを掴むと、それをタクの目の前に差し出す。
「このクマちゃん、あげる。この色は持ってるんだ」
それは、青いクマの人形。キーホルダーにもなる、クマだった。携帯サイズの…。
「いや、男がクマのストラップは…」
「でも、私とおそろいだよ」
ホラッと、ポケットから出ているクマを揺らす。
 それは、タクがさっき精一杯取ってくれた、ピンクのクマだった。
 差別はよくないけど、この子が一番お気に入り。
 私は、タクがもう一度拒否る前に、ポケットにクマを突っ込んだ。
「ほら、電車が出ちゃうから、早く行こうよ」
グイッとタクの腕を引っ張る。電車が来る時間が近い。
 しかし、逆に私が後ろに引っ張られた。
 あまりにも突然のことで、何が起こってるのかわからなかった。
「た、タク!?」
驚いて何事かと上を向くと、すぐ近くにタクの子供みたいにサラサラした髪の毛が映った。
 瞬きをすると、髪がまつげに絡みつく。
 これから起こることが、予想できて、胸に甘い気持ちがにじみ出てきた。
 唇が重なる感触と、互いにかかる呼吸。
 どこか不思議な空間に包まれた。
何度目の願いだろう。
 このまま、幸せの気持ちのまま、時が止まればいいのに
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