夢を見てた。それは、懐かしいあの日。いや、ついこの間だったはず。
 おかしい。まだそんなに経ってもいないのに、懐かしいなんて。
 それに、こんな事夢に見るなんて。
 タクは夢じゃなくて、現実なのに。
 おかしいね。
「なぁ」
「ん?なに?」
それはまだ、ケンカをする前の幸せだけに包まれていた私たちが、あの駅でタクの帰りの電車を、待っていたときのことだった。
「桜、見に行こうな」
「うん。そうだね。来年は、一緒にこの駅で写真撮ろうね」
夏の香りを含みだした風が二人の間を通りすぎ、髪を揺らす。
「いや、そうじゃなくて。木。桜の木」
「桜の木?」
「あの桜の木を探しに行こう。春になったら、そこで花見をしよう。俺たちの、秘密の場所で」
秘密の場所。なんて幼稚でステキな響きだろう。
 もう夏が近いって言うのに、目の前に桜が舞ったように見えた。
「うん。ほら、指切りげんまん。破ったら、許さないんだから」
そう言って小指を突き出す。
 なんて、幼稚な行動だろう。
「俺が、お前との約束を破るわけねぇだろ。ぜって~、来年見に行こうな」
そして、なんてステキなんだろう。
 きっと、この約束が私たちをつなぎ止めてくれる。
 夢の中でも、過去の夢でも、私の胸の中にはなぜか不安が溢れていた。
 でも、この夢があまりにも幸せすぎた。
「タク…」
大好き。
 そう声に出す前に、私は息を止めていた。
 大きな木が薄紅色に咲き誇っていた。
 でも、そこにあるのは私と桜の木だけ。
 空も地面もタクもなんにもなくて。
 おかしいね。この桜は、タクと見ているはずなのにね。
 おかしいね。

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