終電終わりみたいに、静かになった駅。黒い空。ポツンと二人を写す街灯。
 1つに交わるように伸びた影。ポツンと立っている、私とタク。
「え?今、何か言った?」
驚いて振り返る私の目に映るタクは、俯いていて表情が見えない。
 それでも、いつものタクと違う事ぐらい、私だってわかる。
 そして、何を言われたのかもわかってる。何を言ったのかもわかってる。
 でも、認めたくない。
 このまま、とぼけたふりを続けていれば、認めずに済むだろうか?
「ユイ。聞こえただろ。俺たち…」
「嫌だよ!」
告げられる言葉が恐くて、耳を塞ぎ遮る。
 まるで、呪いの呪文でも呟かれたように。
「どうして?わかんないよ」
「ごめん」
どうして謝るの?謝るぐらいなら、そんなこと言わないで!お願い。
「ユイが嫌いになったわけじゃないんだ」
「それならどうして?わからない」
わからない。タクの考えている事も気持ちも、何もかもわからない。
 あんなに近くにいたのに、急に引き離されてしまった。
「俺、ユイとあわねぇんだ」
「そんな…」
私たちの相性って、いいと思ってたのに。
 ケンカはするけど、他人から見れば仲良しカップルだって言われてるし。
 私も、ずっと一緒に生きていけると思っててのに…。
 どうして!
「タクと私、超相性いいじゃん。仲良しだったよ?」
「ごめん。ユイのせいじゃない。でも、俺が無理なんだ」
「桜は?」
もうダメだ。わかってる。
 でも、愛しい気持ちが溢れてしまう。
 彼を失いたくない。
 でも、この気持ちはきっと彼を壊してしまう。
「春になったら、桜の木、探しに行くんでしょ?約束、守ってくれるんでしょ?」
「…ごめん」
彼は、それしか言わなかった。
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