月と太陽の事件簿14/隙間女の視線
あたしは左手でナイフをさばくと同時に右足を跳ねあげた。

ぐにゃん、と嫌な感覚が伝わる。

泉田は踏んづけられたカエルが出すような叫び声をあげると、白目をむいてその場に崩れ落ちた。

「久しぶりに見たなー。レミの股間蹴り」

いつの間にかやってきた達郎が、背後からひょいと顔をのぞかせた。

「確保するまで下がってて」

あたしは達郎を制しながら手錠を取り出した。

「大丈夫だろ」

達郎は泉田のそばに屈み込んだ。

「なんか、白い泡ふいてるし」

それは事実だった。

うーん、もう少し手加減しとくべきだったか。

「だから危ないって言ったんだ」

星野警部補がやけに真剣な面持ちで、泉田の顔をのぞき込んだ。

「あれって、泉田に言ったんですか?」

一応、訊いてみる。

「当然だ」

星野警部補は、大きくうなずいた。

「どうやら死んではいないようだな」

泉田の脈をとりながら星野警部補は安堵のため息をついた。

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