合縁奇縁~それでも愛は勝つ
家の中で電話を受けるわけにはいかない。
これ以上雄太を刺激するわけにはいかない、と思った。
ただでさえ多感な年頃で、受験を控えて過敏になっている。
そんな彼にプロポーズの話なんて、するんじゃなかった、と反省もしていた。
雄太を煽って、あたしはいったい何をしようとしてるんだろ。
ほんの少しの期待が、あたしの胸の底にあったのだ。
どうしようもなく、女である自分を呪った。
あたしは、一度上着を取りに室内にもどると、アパートの階段に腰掛けて、園長先生からの電話を待った。
時刻は七時半を回り、そろそろ最終お迎えが終わって園も戸締りの時間だ。
あたしは不安を掻き消そうと、小さく鼻歌を歌っていた。
子供の頃から大好きな曲、『オーバー・ザ・レインボー』。
この不安の向こうに、幸せの七色の虹が見つかるといい……
そんなささやかな願いを込めて。
だから、彼の近づく足音に気がつかなかったんだ……