合縁奇縁~それでも愛は勝つ
それから暫くは記憶がない。
毎日を抜け殻のように過ごしていた。
兎に角、朝起きて、雄太を学校へ出して、会社に行って、仕事して……
当然、ミスも多かった。
「天野くんらしくないな、こんなミス。
どうした、ここ数日、具合も悪そうだし、何かあったか?」
あたしはその前月に母を亡くしたばかりだったのだ。
弱音を吐く相手のいない、この状況が、あたしの心を蝕みつつあった。
「いえ、ちょっと寝れなくて……すいません、直ぐにやり直します」
あたしたは俯いたまま、頭を下げた。
「君は、少しゆっくり休んだ方がいい。これくらいの修正は、桜木くんにもできるだろう。
お母上のことは、本当に急なことで辛かったろう。
いろいろ心配ごとはあるだろうけど、僕でできることなら相談に乗るから、あんまり一人で抱え込むなよ」
いつもは無愛想な課長の言葉に、耳を疑った。
「か、課長?」
顔を上げたあたしの目に映ったのは、心配そうにあたしを覗き込む課長の顔だった。
緊張の糸がプツリと切れた。
「あ、天野くん!」
課長が焦って叫ぶ声が遠くに聞こえて……あたしは意識を失った。