合縁奇縁~それでも愛は勝つ
「わかったよ……」
明らかにその声は不満気だったよね。
十五分後に再び電話をすると、案の定、雄太は電話に出なかった。
あたしは、もうそれだけでパニックに陥った。
「か、課長、すいません。
こ、子供が家にいないんです……
わ、わたし帰らないと……
ゆ、雄太が連れて行かれてしまう……」
胸が苦しくなって、立っているのもやっとだった。
「天野くん、落ち着いて、兎に角座って話を聞こう」
「だ、駄目です!
そ、そんな猶予ありません……
あ、あの女は、きっと今日も雄太を連れ去ろうと待っています。
は、早く行かないと……」
「あの女?」
「そ、そう、あ、あの女です」
「あの女って?」
「雄太の祖母に決まってるじゃないですか!」
声を荒げるあたしに驚くことなく、課長は
「なんだか複雑な事情がありそうだな。
取りあえず、こんな状態で君一人返すわけにはいかないよ。
今日は仕事も終わったし、一緒に行こう」
「え?」
「誘拐まがいの事件かもしれないんだろ?
上司として、付き添うよ」
焦った様子もなく、平然とそう言った。