合縁奇縁~それでも愛は勝つ
それからは地獄だった。
つわりの始まったあたしを、課長は無能呼ばわりして遠ざけた。
次第に社内に、あたしの妊娠の噂が広まり始め、あたしは『身持ちの悪い腰がる女』というレッテルを貼られた。
終いには、とうとう人事に呼び出される羽目になる。
「天野君、こんな個人的なことにあまり口を挟みたくはないんだが……
確か君には、父親のいないお子さんが既に一人いたと思うのだが……」
「はい、戸籍上は」
「と、いうと?」
言ったはいいが、後が続かなかった。
「いえ、息子の父親は既に亡くなっていますので……」
「じゃ、今、社内で噂になっている、君の妊娠の相手というのは?」
「そ、それは……」
もう絶対絶命だ、後がない。
「天野君、こんなことは言い難いんだが……
さすがの我が社も、私生児を出産するために出産休暇を認めるほど進んではいないんでね。
このまま、君が、その……その子を産むつもりでいるのなら、会社を辞めてもらわないといけないことになる」
あたしはこみ上げる怒りをぐっと一息で呑み込むと、用意してきた辞表を人事課長に差し出した。
「この子は産むつもりです。神様からの授かりものですから」
あたしは、静かに立ち上がると頭を下げて面接室を後にした。
精一杯のあたしの意地だった。