予定、未定。
「…は?
別に俺が何しようと勝手だろ。あんたには関係ねぇし」

うっぜぇ。

率直にそう思った。

自殺しようとしてる他人なんて助けるか、フツー?


掴まれた腕を強く振り、彼女の腕から逃れようとした。

だけど、彼女は思ったより力があるのか、なかなか振り解けず、意味の無い振幅運動が繰り返される。

振幅運動と波の動きが合わさってボートが揺れた。


…こんな事してたら、いつかボート転覆するぞ?
そしたら、あんただって危ねぇじゃん…。

真っ直ぐ見つめてくる瞳と…溢れてくる感情から逃げるように顔を背ける。


やめとけって。
俺なんか助けんの。
ほっとけよ。なぁ?

そう思うのに声には出せなかった。

言葉は喉のあたりで突っかかる。

…瞳が俺を貫いてるのを感じた。


「ええ、そうよ関係ないわ。
だけどね、このまま放っておいて死なれたら私も夢見が悪いのよ!」



――…死なれたら…――


ぐっと喉が詰まった気がした。

なんとも自己中な御意見をのたもうた美少女は俺を引き上げようとさらに力を込める。

自分の身体が上がったのを感じて、一体その華奢な腕はどうなっているのかと本気で思う。



…なんで。

なんで、彼女に関係のない俺を助けようとしてるんだ。

今初めて会ったばかりの他人に、何の躊躇いもなく手を貸せるんだ。

…このお人好しが。


「ほら、早くしてよ!」
ボートから怒鳴る彼女を見て、何だかどうでもよくなってきている自分を感じた。


憑き物が落ちたように、さっきまでしていた抵抗や反発はやめ、彼女の手を借りながらボートにあがった。

小さいボートは少しの振動でかなり揺れ、転覆しないように気をつけながらは結構しんどかった。

無事に乗り込み、底に腰を下ろす。

ボートに水溜まりが幾つもできたが、こればかりはどうしようもない。


(…謝んなきゃなんねぇのかな、ボートの持ち主に。
水浸しにして…怒られっかも。
…あー…めんどい…)

点々と小さい水溜まりをぼんやりと眺める。

自分が元凶なクセによく言うよと自分で思った。

…でもめんどくさい。



……うん?
ちょっと待て。

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