予定、未定。
身体が少しゾクッとしたのは夜風のせいかもしれない。うん。

俺と丁度向かい合うように座っている彼女に目をやる。

海を見ている彼女が羽織っている白いパーカーは所々濡れていて、申し訳なさが湧いてきた。

「…あのさ」

「何?」

おずおずと話しかければ、こっちを向いて返される。

「この舟ってアンタの家の?」

「違うわ」

…だよな。
心の中で呟く。

パーカーから伸びる腕は細いし白い。

この手漕ぎ舟をいつも使っているとは思えない。
それに彼女の周りも結構濡れていて、慣れない櫂を漕いでいたからだろうと思った。

「…じゃあ、誰の?」

「さぁ?」

「…は?」

…こっちが聞いたのに疑問文で返されても困る。
……第一、「さぁ」って…。

俺の表情にでも表れていたのか、軽く肩をすくめる。
気取ったような仕草なのに、気取ってるという感じを与えさせない辺りがスゴい。

「誰のか知らないわ。
海辺の近くにあったから、ちょっと失敬しただけよ」

「……無断で借りたわけ?」

「そうなるわね」

「………っはぁぁぁあ?!?!」

ケロッとした顔でとんでも発言をする美少女と、マヌケな声を出す俺。

無断て…
無断て…

(…盗みと大した変わんねぇじゃねぇか!!)

いや、ちゃんと返しはするだろうけども!

持ち主が今頃無いのに気づいて、盗まれたと思ってるかもしんないし!
警察に連絡してっかもしれないし!

見つかったらどうするんだよ!?
…完っ全に巻き添え食らうだろ!!俺!!


頭の中はパニックを起こし、てんやわんやな状態。

とりあえず口に出て来た言葉は、

「お前…どうすんの…」

という弱々しく情けない声しか出なかった。

「どうするって……何がよ?」

「何がってっ……、見つかったりとかさぁ!?」

「あぁ…そういうこと」

…そういうことって…。頭がクラクラしてきた気がする。

相変わらず飄々としている彼女。
…そしてさらりと恐ろしいことを言う。

「逃げればいいじゃない」

……そんな平然と言うべき内容じゃない。
顔色が変わるどころか産毛すら動かなかったんじゃないだろうか。

…何なんだ、もう。

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