予定、未定。


……20分、いや、30分か。

俺の『漕ぐ』という才能が見事なまでになかったのと、思いの外遠くまで行ってたため、それぐらいかかって、ようやく陸に辿り着いた。


「…や、やっと着いた…」

舟が砂浜に乗り上げたのを振動で感じ、櫂を手放した。

疲れきって、後ろに倒れ込むように舟に寄っかかる。

初の舟漕ぎは俺にとんでもない疲労をもたらした。

寒いし。
腕痛いし。

酷使させ過ぎて悲鳴を上げている腕を揉む。

…コレは明日確実に筋肉痛になるんだろうな。

腕を動かす度に苦しむ自分の姿が容易に想像できて嫌だ。



「お疲れ様」

「……っうわ!?」

一人空想に耽っていたら、突然、耳元で涼やかな声が聞こえてきて吃驚した。

…そして。

他の身体の部分と同じくすっかり冷え切った耳に温かい吐息がかかったのを感じた。

「……っ!?!?」

急激に顔に熱が沸いてくる。…きっと赤くなっているんだろう。真っ赤に。

勢いよく振り返れば、真後ろに彼女が立っていた。

先に舟から降りていたらしい彼女は、過剰反応を示した俺を見て怪訝な顔をする。


「…何よ、その反応」

何がってお前のせいだよ!!


そう突っ込みたかったが。

張本人の様子は至って普通というか、…全くの無自覚のようだ。

「や、別に!!」

急に飛び跳ねた心臓を抑えながら適当に誤魔化す。


無自覚なら、まぁ…仕方ないのか…?

未だに訝しげな表情の彼女を見やる。

どうやら彼女は自分の行動の大胆さを理解してないっぽい。

少しぐらいは察知して欲しいものだが、まるで分かってないならどうにもしようがない。



…とか言って、単に俺がムダに意識しただけだったらどうしようか。

……もの凄く恥ずかしい。



「…ちょっと。」

「…っ!…ぃった…!!」


どうも不意打ちが得意らしい彼女は、今度はいきなり顔を近づけてきた。

驚いてのけぞった時、舟に寄っかかていたのを忘れてしまったせいで頭を思いっきりぶつけた。
目の中で星が舞う。痛い。


それでもかろうじて「…な、何…」とだけは返した。


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