いつか、桜の下で…
―翌日。
「水上。今日のスケジュールだが…」
「今日のスケジュールは……あ、ありません!」
「はぁ?」
「だ、だから…ないんです…」
菜緒は、精一杯の勇気を振り絞って、健一に刃向かった。
一方、健一はというと、いつもよりも眉間にしわが寄っていて、恐さが増している。
「水上」
さっきまで聴こえていたキーボードの音は消え、緊迫した雰囲気に変わる。
「…は、はい…」
出すぎた真似だったのかと、菜緒は思った。
けれど、健一は肩の力を抜いて、
「お前に心配されるとはな」
微妙に微笑んだ。
それは、二年間近くにいても、一度も見たことがない表情だった。
「水上」
「は、はい!」
「珈琲飲むか?」
「は、はい!…はぇ?」
健一から、滅多にない一服の誘いに菜緒は、驚いていた。
「ブラックでいいか?」
「あ…はい」